January.20.2019
Eco Ship
ピースボートのeco ship、2022年の就航予定になりました。
eco shipの第1回募集が始まったのは、第92回の地球一周を決め、準備している最中で、リピーター限定であり、大半の人はその不確実性(リスク)についても認識されているようでしたが、既申込のクルーズをキャンセルされ、乗り換える方も一部にはいらっしゃいました。
処女航海にあたる第1回のクルーズは、流石に斬新過ぎて僕はスルーしましたが、その後2020年のSOLAS条約※1)改正に含まれる船舶の環境への影響、UPA(United Peoples Alliance)※2)などの活動を知ることになり、第2回、3回の募集をきっかけにひと口乗りました。笑
※1)海上における人命の安全のための国際条約。
※2)支援物資を世界中に届ける活動。
個人的には、海外でのクルーズ体験から、プロジェクトの難易性を認識しており、2020年就航は間に合わないだろうなと思っておりましたが、一方で、欧州の造船プロセスが、わが国のそれとは異なることも知りました。
欧州では、船舶建造は分業化されており、設計はエンジニアリング会社が行い、そこからマネージメントされ、モジュールを製作、効率化されたプログラムの採用により、シップヤード自体が行う作業(工程)を減らし、「工期の短縮および生産性」を向上※3)させる取り組みが進んでおりますので、一概にわが国の造船常識を以って当てはめることはできません。(これが結果的に、申込者への情報伝達の遅れに繋がったようですが)
※3)例えば、Fincantieri造船所では2017年および2018年に、それぞれ5隻の異なるCruise Lineの客船を竣工させております。
とは言え、2020年1月1日発効の新しいSOLAS条約をクリアするのは容易ではありません。
ポイントは、ざっくり燃料油の硫黄分濃度を下げた環境に関わる規制と、旅客船の損傷時復原性基準の強化に伴う区画と損傷時の復元性要件の新設に絞られます。
前者は元々「世界で最も地球にやさしい船」をコンセプトにしているのでさして問題ではないでしょうが、後者は船級協会(DNV GL)におけるその判定も含め、前例がないことであり、想定を超えた苦労があるようです。
間が悪いことに、IMO(国際海事局)第96回海上安全委員会(MSC96)より審議されていた区画と損傷時の復元性要件が採択されたのは2017年6月にロンドンで開催されたIMO第98回海上安全委員会に於いてであり、eco shipのプランが固まり募集を開始されたのが2015年の9月(この時点では、造船所を選定中であると記されている)であったから、その後設計変更を余儀なくされた※4)ことは想像に値します。
※4)2020年1月1日以前に契約が締結している船舶については、IMO98で決まった新ルールは適用されず、建造することができます。
しかし新造船の安全性向上に資することであり、専門家からSOLAS2020を適用することが助言され、結果納期への影響を受諾せざるを得ないとの判断があったようで、ある意味、こういう積み重ねが、歴史に刻まれる船を育てて行くのだろうなと思います。
商船に用いる国際総トン数(G/T)は、外壁で覆われた部分すべての容積を示します。
eco shipの要目は、その発表時、ガーデンパーク(洋上植物園)の構想について示唆されていたものの、最終設計の段階であり(※5)ECOSHIP PRESS 創刊号参照)、OLIVER DESIGN社の描いた当時の完成予想図をもとに、55,000tで計画されました。
その後、このガーデンパークのデザインが決まり、船首部分全体がクローズされたことなどの見直しを経て、現在は65,000tで進められております。
おもしろいことに、この大幅な変更?ともいえるデザインは、ECOSHIP PRESS 1号に掲載された設計図や、同5号の裏表紙裏の断面図カットなど、外観イメージこそデザイン事務所の描き方で変わりますが、デッキプランはそう大きく変わるものでなく、暗示されていたのですね。
このプロジェクトの推進者の一人、Tomas Koberger氏は、ECOSHIP PRESS 2号の中で、「単に新しい船を造る事業ではありません。野心的な目標を達成することで、旅行業界や運輸業界などの技術を高め、良い波及効果をもたらすというミッション」であると述べています。
※5)ECOSHIP PRESSは、エコシップ造船までの様子や、環境保護のための取り組み、同プロジェクトに携わるさまざまな分野の専門家へのインタビューなどを伝え、予約者には特典のひとつとして配布されています。
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